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あたらしく、なつかしい。     2010年9月

 ネパールと関わってから、かれこれ22年になる。
横浜の貿易会社で企画の仕事に携わり、初めてネパールの地を踏んだのは1988年だった。あの頃は、まだ牛も道端をゆうゆうと闊歩し、車も時折ブオーンと砂煙をたてながら通り過ぎるようなカトマンズだった。人々はそれほどお金にこだわらず、日々の生活を食べることとおしゃべりすることを楽しみに生きていたように思える。
 
 ゆいガイアの手すきメーカーは、当時私が勤めていた会社の社長が開拓した。カトマンズのお土産物やさんを物色していたとき、たまたま目にとまった若い青年。瞳が純真で、素直そうに見えたと言う。畳1畳ほどの小さな店で所せましとそのあたりにある物と同じような手漉き商品を販売していた。その彼が、社長の「こんなものがあったらいいなあ、キミはできるかい?」という言葉に触発され、どんどん期待どおりの商品を創り上げていった。こうして当時ではめずらしい日本人オリジナルデザインのメイドインネパールカレンダーが世にデビューしたのである。
 当時、ネパールで外国人のオリジナルデザインカレンダーを手がけるというのは、本当にまれなことだった。そして、それは今も他のメーカーでさえなかなかやっていない。何せ正直言って、ネパールの商人にとっては、これはとんでもなくめんどうで手間暇がかかるビジネスであるのだ。今ではその彼にかわって、一緒にやってきたコツコツ派の兄貴が手漉きカレンダー第一担当となっている。

 私は今から15年前にその会社をやめたあと、ふらふらと旅をしていた。インド帰りで心身ともにぐったりしていたが、カトマンズでそのメーカーの家に居候し、あまりにおいしくて身体にやさしいネパール料理に生き返り、心があたたかく満ち溢れ、まったりとネパール暮らしをしていた。そんなとき、兄貴が私にこう言った。「まこ、ショウバイやらないの?まこのデザインしたカレンダーを作りたいよ。資金なら貸してあげるから」。このひとことで・・・・ネパールの心地良い空気とともに、私の歴史は動いたのである。
 
 みんな、お互い、おじさん、おばさんになってしまった。顔のしわを笑いあいながら「あの頃は~」なんて昔の話題に花が咲く。私のほうは、一年いちねん、だいじに描き続ける、それでこれまでのゆいガイアの12年が過ぎて行ったように思う。「まこがやり続けるまで僕もがんばるよ。」と兄貴は言ってくれるけど、これからもきっとそんなふうに365日が過ぎていくのだろう。

 22年の間に、ネパールはすっかり変わった。しかしそれはどこの発展途上国でも見られる現実であり、昔のネパールがよかったと私なんかが言える立場ではないけれど、当時、朝もやの中を、野菜をかついで売りにいく人々とすれ違いながらスワヤンブーのモンキー寺めざして歩いた土の道が脳裏をかすめては、そのなつかしい匂いに支えられて私はいつもこころで絵を描いている。変わらない私とネパールに、変わりゆく私とネパールを重ねながら。あたらしく、なつかしいその二つを慈しみつつ…。

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 話は変わって。今年の6月、福音館書店から、こどものともシリーズにて「トラとネコ」という絵本を出版させていただきました。ネパールの昔話をロクタ紙に描き、ネパールで印刷した白黒原画に私自身が着色をして日本で製本されました。ゆいガイアで販売はいたしておりませんが、みなさん、機会がございましたらぜひご笑覧くださいませ。

 さて、ゆいガイア2011年カレンダーが今年も揃いました。いつもあたらしい気持ちで、一枚、一枚、創り上げています。ぜひ、来年も、みなさまのお手元に置いていただけますよう、どうかよろしくお願いいたします。
                          ゆいガイア 井林昌子
                     (NPO法人ヒマラヤ・ロクタの森 代表)



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