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愛と、笑顔と、希望のひかりを。    2020オンシーズン

 言葉にしたいことはたくさんあるけれど、積み上げた砂のお城のように、足元からサラサラと流れてしまうようだ。様々な不安と行き場のない思いに、世界中のたくさんの人が苦しむ日々…その一分、一秒にどれほど尽くせない想いが刻まれているだろう。

 さあ、イタリアのお話しをしよう! こんなことになった時からずっとそう思っていた。
2月。2021年カレンダーサンプルがネパールから送られてきた。オーダーもした。数か月かけて描いていた今回のワールドシリーズのタイトルは…なんと「Come here!」。だけど、不穏なニュースが出始めていた。そうこうしているうちにどこの国もロックダウンが始まりだした。このタイトルは…変えた方がいいのだろうか、でもそんな、まさか、夏ごろには…などと思いがめぐり、しかし、こうして迷っているうちに時はじくじくと過ぎていった…。まさか、まさか、世界がここまで窮地に立たされることになるとはその時はまだ想像すらしなかった。
 
 3月。イタリアが感染爆発していた。カレンダーの3-4月のページはまさに北イタリアだ。昨年の私は33年前のイタリア旅を思い起こしながらわくわくしてこれを描いたのだ。しかし…悲しいニュースは毎日、前日の数字を空前絶後の勢いでぬりかえていった。ニュースの映像では、これまでのハツラツと明るかったイタリアの人々の笑顔は失せ、恐怖と苦しみに悶える顔を映し出していた。大好きなイタリアが、イタリア人が…。
 
 今から34年前、私は初めての海外旅行をした。当時、「地球の歩き方」が出始め(まだ3巻しかなかった)、「語学留学+バックパックで個人旅行」の大人気企画が始まったばかりで、私もそれに飛びついた。イギリス・ケンブリッジで一か月ホームステイしながら語学学校に行き、終了後にヨーロッパを自由にまわるという個人旅行プランだった。イギリスのあと、私はフランス~ギリシャ~エジプトを選んだ。しかし陸路でフランスからギリシャへ行くので、その間にあるイタリアも通過しなければいけなかった。当時は、今のようにユーロ通貨はない。国ごとで両替が必要な時代だ。ギリシャ行きの船着き場のある南イタリアの靴のかかとの港町ブリンディシに着くまでフランスからずっと汽車に乗っているというのに、おバカな私は、なんとイタリアリラを持たずに汽車に乗ってしまった。どこかで両替できるだろう、と浅はかな勘違いをしていた。とてつもなく長い汽車旅だというのに…。
 いったいどれくらい乗っていただろうか。いつまでたっても終点につかない。しかしローカルな汽車の中で両替なんかできるはずもなく、リラがないから何も買えない。小さな駅のホームに売りに来る食べ物屋さんでクレジットカードなんか使えるわけがない。おなかがすいて、すいて、水すらも飲めなかった…。暑い真夏だった。脱水症状で頭はもうろうとしていた。イタリアの空も景色も、人々の顔も、私には灰色に変わっていった。イタリアの長靴は、本当に長かった。もはや旅はこれまでか、と、気絶しそうになった。そのとき…。
 こんなひもじい私を救ってくれたのは、途中から同じコンパートメントになった同年代のカナダ人姉弟の旅行人だった。いろんな駅で次々とおいしそうなピザやスナックを買っていた二人を、私はいったいどんな目つきで見ていたのだろうか。何時間かその空気を共にしたあと、ようやく彼らは私にお金がないことに気づいた。そしてお姉さんがマリア様のような笑顔の面持ちでピザを一切れ私にめぐんでくれたのだった。あぁ、あの時の幸福感といったら。ピザって、こんなにおいしかったんだ!
 マリア様とイエス様のように見えたカナダ人姉弟とその後のギリシャでもずっと一緒に過ごし、旅の楽しさは倍増した。うっかり、私は弟と恋に落ちてしまったけれど。
 次の年の卒業旅行で、今度はリベンジするつもりで再びイタリアを訪れた。北イタリアを中心にまわり、自然や文化の美しさを堪能して、明るくて陽気な人々に接し、今度はすっかりイタリアの魅力に再びノックアウトされてしまった。こんなにスバラシイ国だったなんて!

 そんな2つの旅を思い起こしながら描いたベネチアにある離島、積み木のクレヨンのようなかわいいブラーノ島。だけど、今、ここに住む人々は…。考えるたびに胸がえぐられるような苦しい思いになる。
今はまだ「ここにおいでよ!」とは大手を振って言えないのだけれど…、
いつか、きっと、いつか、きっと、愛する世界の人々の待ちわびた笑顔に会いに行こう。
希望のひかりを信じて、その時が来るのを信じて、みんな、元気で、生きて、生きて、きっと来る明るい明日を、いつの日かいっしょにむかえられる日がくることを祈りつつ。

                            ゆいガイア 井林昌子



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