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これからも、描きつづけます   2024オンシーズン

 この春、故郷に移り住んだ。40年ぶりに暮らす地。
これまで、少しずつ、しずくが一滴ずつ溜まるように、一年 いちねん、一日 いちにち、想いの嵩が増えていった。しだいに、ここに帰りたくてしかたがない毎日になった。
いろんな理由が、どんどん重なった。 だから 行くのだ、と確固としてゆるがない気持ちになっていった。
ここは、私の原風景。

長く住み慣れた真鶴も大好きで、たくさんの人と心かよい合い、ささえられた。真鶴のすべてに感謝の気持ちでいっぱい。
それでもここに還りたいという想いは、変えられず。

人々の暮らし、山並み、田畑、澄んだ水、草のにおい、牛のにおい、生き物の声‥‥空の色、空気の色。
なつかしさは、ただ、生まれ育ったからだけではない。そうだ、ここは、ネパールの森と似ているんだ。
この地にいると、ネパールにいるように感じることがある。だから、よけいにうれしいのだ。
行けなくたって、だいじょうぶ。 なんだか、じんわり、泣けてくる。
 
 飛騨には、コウゾを原料とした山中和紙という手すき伝統文化が受け継がれている。
山中とよばれる石灰質を含んだ土で育ったコウゾは、ネパールの手すき原料のロクタ(ジンチョウゲ)と特性が似ているといわれる。ロクタはミツマタよりも繊維が太く長く堅強であるため、漉いた時の絡みがしっかりして丈夫な紙ができる。コウゾと同じように。

飛騨の手すき工房を訪れた時の高揚感といったら。
ちりとり、煮熟の窯、簀桁、漉き舟、靭皮をはがした黒皮… これら手すき紙の工程や原料もさることながら、厳寒な雪国の美しい水を利用して自然に寄り添って作られる手すき文化が、私は大好きなのだとしみじみ思った。冬のヒマラヤ山麓、凍みる青空の下で手すき仕事をしている人々の白い息を思い起こす。
昔ながらの手すき文化を伝承している飛騨にこうして住みながら、私自身はネパールの手すき文化とかかわっていることは、たまたま偶然で、ただ、生きる道の途上で重なっただけなのだけれど、飛騨で生い立ったこと、ネパールの森に魅せられたこと…、フシギとここで一つになった。

 すきなことを、ゆっくりと、少しずつ、あたためていく。
そんな日々の中で、ときどき “ホッと、わたしの世界” があったらいいな、と思う。

真鶴の紺碧の海を想いながら、飛騨の深碧の山に寄り添って、
こころをこめて、まだまだ描きます。
かわらないゆいガイアと、かわっていくゆいガイアを、これからもどうぞよろしくお願いいたします。

                      ゆいガイア 井林昌子 



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